2016年7月25日月曜日

TERRAIN VAGUE(テラン・ヴァーグ)vol.37 醫と藝 深層意識と花―土用編―

TERRAIN VAGUE(テラン・ヴァーグ) vol.37

テーマ:醫と藝  深層意識と花―夏編―
日時:7月25日(月) 19時から21時頃まで
講師:稲葉俊郎
聞き手:塚田有一
場所:東京都千代田区西神田2-4-1 東方学会本館三階33-2号室 温室
地図 ※会場はイベント当日以外は一般に開放していませんので、ご注意ください。
料金:3000円(お茶菓子付き)
お問い合わせ:満員御礼! 定員に達したため受付を終了しました。

東大病院循環器内科の医師稲葉俊郎さんをお招きしての年5回のシリーズ「醫と藝」。第3回目は夏至に続いて夏の土用に開催します。


前回の第2回目で僕にとっても象徴的だったのは、スライドの表紙が世界樹である「扶桑の樹」だったこと。天と地を結ぶ宇宙樹であり、あらゆる生命の「いま」と「とわ」が描き出されていると僕は見ます。明滅する今、うつろいこそが真であり芯であり信であり、伸、新、心であると。
万物が響き合っている命そのものである樹。天地のエネルギーを巡らせている植物。
ひとは60兆の細胞が調和して、植物器官を中心に抱いています。ひとは歩く樹かもしれず。時として根無し草にも例えられます。
藝という文字も古くは樹を移す形とも言われています。ひとがあえて樹という命を移すこと。そうやって結界をつくっては、祭りも政りも行われてきました。
「花」は季節を巡って時節を告げて咲き、だからこそ多くの人の間で思い出となり、記憶され、シンクロが起き、縁を結んでいきます。世阿弥はそれを「めづらしき」と言ったのではないかと思います。めぐって今年もまた当たり前のように咲くことこそ「珍しき」こと。それこそ「愛づる」べきこと。「おもしろき」こと。巡って咲く花は、人々の小さな依代になってきたし、これからもそうなのだと思います。


以下は前回の「醫と藝」直後の稲葉さんのFACEBOOKより引用。(他にも引用したい文章がたくさんあるのですが長〜くなりますので泣く泣く割愛)
「1932年、第1次世界大戦後。
世界は破滅に向かっているのではないかと人間の良心が叫んでいたころ。
国際連盟がアインシュタインに依頼したことがある。
「今の文明でもっとも大事だと思われる事柄を、最も対話したい相手と書簡を交わしてください」。
アインシュタインが選んだ相手はフロイト。
テーマは「ひとはなぜ戦争をするのか 」だった。
その内容が講談社学術文庫で出ている。120ページという薄い本で、500円。刺激的な対話が簡単に読める。
詳細は本書を読んでもらうとして、
フロイトの結論は「文化が戦争の抑止力になる」ということだった。
フロイトによると、人間の心はもともと破壊衝動を持つ。
それは行き場のないエネルギーそのものだ。
同じエネルギーでも、その行く先を少し変えれば、破壊のエネルギーは創造のエネルギーへと質が変わる。
破壊ではなく、文化を創造する水路をつくる。
文化は、人間の心や体を否応なく変える力を持つ。
そのことが戦争の抑止力として機能するだろう、と、フロイトは精緻な文章で語る。

自分も同じことを思う。
アインシュタインやフロイトに共感する。
重要なのは、人間のエネルギーの使い方、使う方向性。
そして、美や芸術や文化というものが、その歯止めとなること。
さらに加えて自分が提言したいのは、
人の体の中心には植物原理に従う植物性臓器があり、
植物原理こそが命を支えて伝えてきたということ。
具体的には食と性を担当し、いのちの本質を維持し伝える役割を果たしていた。
そうした植物原理を中心に据えて思い出す事が、戦争ではない解決法を人類が選択する重要な手掛かりになるということだ。
植物原理は同化・吸収・融合の原理。
それに対して、動物原理は反発・征服原理。
これは、人の体を動かす時にも、重要な原理となる。どちらの原理で、私たちは身体を運用していくのか、その選択を常に迫られている。
人間は植物原理と動物原理が重なり合った存在で、そのバランスをとっている存在だから。
矛盾を統合する役目がある。

植物は、自然を征服せず、自然の中に入り込む。
自分の芯(軸)を立てて実らさせる。
天と地を結ぶ。
闘争原理ではなく、土の中に根を張り、入りこむ。
周りに溶け込み、自分を養い育てる。
全体と融和的な関係を結び生きる。
こうした植物原理こそが、人類が再度見直す大切な原理だろう。
そのことで、戦争は必要なくなるのではないかと思う。

文化の中心に植物原理を立てる。
それは人の体のメタファーから学んだこと。
インド洋のソコトラ島に浮かぶ竜血樹のように、軸を立てて天と地を結ぶ。
日本は、花や草木やお庭など、常に自然や植物を中心に据えて生活をつくってきた。
それは華道や茶道などの道となる。
西洋は哲学として頭や言語の世界を体系化したが、
それに対して日本は、道という体の世界をこそ体系化した。
塚田さんの温室という素晴らしい植物空間において、
そんなことを話しました。
アインシュタインやフロイトが「ひとはなぜ戦争をするのか」で対話をした、自分なりの結論。
自分も同じテーマを子どものころから考え続けてきたのだった。
アインシュタインやフロイトから託された宿題は、まだ途中のままで、今の世代へと静かに手渡されている。

植芝盛平『武産合気』
「合気とは、敵と闘い、敵 を破る術ではない。
世界を和合させ、人類を一家たらしめる道である。
合気道の極意は、己を宇宙の働きと調和させ、
己を宇宙そのものと一致させる事にある。」


【プロフィール】
稲葉俊郎(いなば・としろう)
1979年 熊本生まれ。
医師(東京大学医学部付属病院 循環器内科医 助教)。
カテーテル治療や先天性心疾患を専門とし、往診による在宅医療、夏季の山岳医療にも従事(東京大学医学部山岳部監督 涸沢診療所副所長)。
伝統医療、補完代替医療、民間医療にも造詣が深い。
能楽を学びながら、未来の医療の枠を広げるよう、芸術、伝統芸能、農業、民俗学・・・など、様々な分野との化学反応を起こす活動を積極的に行っている。

塚田有一(つかだ・ゆういち)
ガーデンプランナー/フラワーアーティスト/グリーンディレクター。
1991年立教大学経営学部卒業後、草月流家元アトリエ/株式会社イデーFLOWERS@IDEEを経て独立。作庭から花活け、オフィスのgreeningなど空間編集を手がける。 旧暦や風土に根ざした植物と人の紐帯をたぐるワークショップなどを展開。 「学校園」「緑蔭幻想詩華集」や「めぐり花」など様々なワークショップを開催している。